
セミナー・イベント情報
社会的知能発生学研究会
サンダイヤルレポート No.109号 (2006年6月)
内容
1.第14回けいはんなWeb Semantics研究会(最終回)開催報告
| 標記研究会が平成18年3月30日(木),関西学院大学大阪梅田キャンパスにおいて開催されましたので以下に報告いたします。 |
平成15年5月23日に開催した第1回研究会から3年間活動を続けてきた本研究会も,今回で最終回となりました. 本回では外来講師を招かず,研究会メンバーによる学生セッションとパネル討論の二部構成で進められました. 一部の学生セッションでは,以下5件の発表が行われました。
- スクロールの影響を考慮したリンク選択容易性の評価
永井 健司,堀 雅洋 (関西大学 総合情報学部) - ランダムサーファーモデルに基づくWebサイト構造解析手法の提案
田中 章喜,堀 雅洋 (関西大学 総合情報学部) - Survey of Semantic Text Portion Related to Anchor Link Bui Quang Hung,
Masanori Otsubo, Yoshinori Hijikata, Shogo Nishida.
(Graduate School of Engineering Science, Osaka University) - KawaWiki: Semantic WikiによるRDF生成
河本 健作,北村 泰彦 (関西学院大学 理工学部) - Semantic Webに基づく対話型ホームページ案内システム
木村 美香子,北村 泰彦 (関西学院大学 理工学部)
二部のパネル討論では「Semantic Webの未来」と題し,本研究会で中心的に 活躍していただいたた堀雅洋(関西大学),井出明(近畿大学),平松薫(NTT), 阿部明典(ATR)各氏と,司会の北村泰彦(関西学院大学)によって,これまで のSemantic Webへの取り組みと今後の展望についての討論を行いました。
研究会が活動してきたこの3年間,国内外で予想以上にWeb Semanticに関す るアクティビティが広がったと感じています.海外では,ISWC, ESWC, ASWC など三つの国際会議が立ち上がり,いずれも多くの参加者があり盛況であると 聞いています.国内でも,「人工知能学会」や「電子情報通信学会」などで Web Semanticに関係する研究会が立ち上がり,それらも活発な動きとなって いるようです.その意味で,今回でこの活動を終えても,メンバーにはより広い 活躍の場が与えられていると感じており,この研究会で得た知識と人脈が新しい 場での更なる飛躍へとつながることを期待しています。
これまでの3年間の活動は,幹事の方々と協賛企業のNTT,ATR,NEC, けいはんな各社の物心両面にわたる支援に支えられてきたものです. この場を借りて,厚くお礼申し上げます。
けいはんなWeb Semantics研究会
主査 北村 泰彦 (関西学院大学理工学部教授)
★けいはんなWeb Semantics研究会のこれまでの3年間の活動につきましては
http://www.kecl.ntt.co.jp/csl/sirg/kewpie/ をご参照ください。
2.第16回社会的知能発生学研究会(Sociointelligenesis)開催報告
| 平成18年3月4日(土)~5日(日)当社主催の標記研究会が開催されました。 |
平成17年度最後の本研究会は、けいはんな学研都市を離れ東北大学の艮陵会館 で開催された。ゲスト講師に東北大学大学院医学系研究科でご活躍中の研究者を ふたりお迎えし、また研究会内からもふたりの発表者を立てることで、分野を 横断しながら質の高い議論を長時間にわたって展開することができたと考えて いる。以下にその概要を示す。
招待講演の1件目として、東北大学大学院医学系研究科生体システム生理学 分野の虫明元先生による「前頭葉による認知的操作の神経機構」と題する講演 があった。
前頭前野は感覚運動認知に強く関わっているといわれている。 この発表では 前頭前野の中でも背外側前頭前野、 内側前頭前野、前頭前野眼窩部の三領域、 および、運動関連分野にそれぞれ注目し、議論を重ねた。講演者はまず、「ゴー ル(目標)」を最終目標へ到達する前の途中目標としての認知的な目標と、行動 の頻度を強めるような正の強化因子である報酬・動機的な目標に大きく分けた。 そして、迷路課題遂行中における背外側前頭前野の細胞活動記録を行動プラン ニングの観点から検討した。その結果、途中段階の決断(即時ゴール)、最終的 なゴール、両者の統合型という3種類を表現していると考えられる細胞活動が 観察された。このことから、前頭前野は目標設定や維持に関わる事が示唆された。 さらに興味深いことに、最終目標から即時目標へと目標が変換されるちょうど その間で細胞活動の同期性が高まることがわかった。すなわち、情報表現が変化 する際に細胞同士が同期している。これは、他の細胞からの影響を受けやすい フェーズをつくることで情報の流れを変える「選択」を可能にするメカニズムで はないかという仮説が語られた。
他に、以下のような様々な新たな知見と仮説が提示された。前頭前野と一次 運動野の間には、目標に向かって対象を操作しようとする認知レベルと、対象を 実際に操作するための身体の動作レベルという階層性がある。前頭前野眼窩部 は報酬の認知に関与し、その報酬を階層的に表現し評価している。手の視覚像 移動課題遂行中の細胞活動記録より、運動前野は、操作する視覚像などのオブ ジェクトの座標に依存した運動情報を表現していることから、運動前野は道具 操作などの運動制御に関わる可能性がある。他者の動作を認識する際、自分の 身体から遊離した分身イメージの段階があり、ミラーニューロンの役目はこのよ うな鏡像を相手に重ねることにあるのではないかという仮説が考えられる。この 点については、ミラーニューロンに関する活発な意見交換がなされた。
2件目は、東北大学大学院医学系研究科創生応用医学研究センターの 大隅典子先生による「脳構築における神経新生メカニズム 認知・記憶・学習 との関連」という招待講演で、講演のテーマは神経新生(neurogenesis)である。 従来は、大人ではニューロンは新しく生まれないという神経発生学の祖ラモ ン・Y・カハールの説が定着していたが、神経幹細胞の増殖と分化は生後も持続 し、その程度は減りつつも生涯に渡って続くことが近年明らかになってきた。 ニューロンを生み出す幹細胞は、初期のふたつの幹細胞をつくる対称的分裂期 を経て、一方は幹細胞、もう一方はニューロンやグリアとなる非対称分裂の時期 に入る。ニューロンはそれ以上分裂しないが、片方の幹細胞はその後も非対称 分裂を続け、ニューロンと幹細胞を生み出し続ける。この仕組みにより、大人に なっても神経新生が起こるのである(ただし、新生ニューロンのうち神経ネット ワークに組み込まれて機能するのは約25%だと考えられている)。
これは、神経 ネットワークがシナプスの組み換えや強化だけでなく、新しく産生されたニュー ロンを漸次組み込んで再編するダイナミックなものであることを意味する。
脳構築のマスターコントロール遺伝子と呼ばれるPax6が神経幹細胞の非対称 分裂に働いていると考えられる。Pax6タンパク質は転写因子で、さまざまな遺伝 子のスイッチをオンにする重要な役目を持つ。講演者らはPax6を中心とする遺伝 的プログラムについて明らかにしつつある。
Pax6変異を持つ人間の家系の行動 異常を調べると、社会性の異常や前頭葉機能の異常が見られた。Pax6変異ラット でも、攻撃的性格・引きこもり、恐怖学習機能の低下、プレパルス抑制の低下 などが観察された。プレパルス抑制とは、例えばいきなり音を聞かせて驚かせる 前に、小さな音を与えておくと驚愕度が小さくなるという現象である。
プレパル ス抑制が低下しているということは、感覚運動ゲート機構が低下している、プレ パルスに対する注意欠陥がある、ということになる。Pax6変異ラットのプレパ ルス抑制を調べてみると、思春期以降ではこの抑制がかかりにくいことが 明らかになった。
神経新生の度合いと神経疾患の関係は興味のある問いである。加齢と共に低 下する神経新生がある程度以上になると、さまざまな疾患が生じる可能性もある。 講演者は、出生前に新生が低下すれば小脳症を促し、発達期の低下であれば 精神疾患がもたらされ、また高齢になってからの低下であれば認知障害が起こる のではないかという仮説を提示した。
夜には、研究会メンバーの梅田聡氏(慶應義塾大学文学部心理学研究室)が 「人は複雑な感情をどのように学習するのか-fMRI・損傷例・自律神経活動から みたメカニズム- 」という講演を行った。
講演者は、社会性や発達の問題に焦点を当て、高次で複雑な感情の脳内メカ ニズムに関する研究を行っている。発表の冒頭で、タイトルにある「複雑な感情」 という言葉から端を発し、感情や情動は言語ラベルによって規定されるのかと いった重要な疑問を巡って活発な議論がなされた。
講演者の研究テーマの本質 を最初から問いかける議論のスタイルは本研究会の特長でもある。 ここでいう 「複雑な感情」とは、喜怒哀楽などの基本感情(basic emotion)よりも高次の、 たとえば「空しい」「切ない」などといった、言葉で説明するのが難しい感情 (advanced emotion)である。
講演者は人間の社会性に強く関係する脳領域 (「社会脳」と呼ぶ。前頭葉内側部など)に注目し、これらの領域が複雑な感情 の学習にどのように関与しているかをfMRIや脳損傷例などを用いて検討した。 微妙な状況に即した表情変化の学習時のfMRI測定から、心の理論に関連して いる「社会脳」エリアでは、ポジティヴな高次感情の学習よりもネガティヴな高次 感情の学習の際に強く賦活していることが明らかになった。
これは人間の感情 移入(エンパシー)の能力と照らし合わせて考えると興味深い。人間はどちらか というと他者のポジティヴな高次感情よりもネガティヴな高次感情にエンパシー を抱くことが多いように思われる。別の研究でアスペルガー症候群の患者は ネガティヴな高次感情学習が悪いことが示唆されており、このことが他者の痛み に感情移入できないという行動に顕在化してしまうのではないかと考えられる。
また、自律神経活動と感情学習の関係について、発表者の今後の研究展望と 合わせて議論がなされた。顔面フィードバック理論と呼ばれるものがある。ペン を歯と歯の間にくわえて、強制的に口が笑ったような状態のままマンガを読む と、より面白いと判断することが知られている。つまり筋肉の動きが感情に反映 されて、自分は楽しんでいると評価してしまうのである。また感情的な表情を するだけで、心拍数が変化すること、すなわち自律神経系の活動まで変わること も報告されている。では、社会脳領域の損傷は、高次感情の学習能力と自律 神経活動の関係にどのような影響をもたらすのだろうか。講演者は最近の知見 を引用しつつ、今後の研究テーマとして発展させてゆきたいとの意向を示した。
2日目は、研究会メンバーの稲邑哲也氏(東京大学大学院情報理工学研究科) による「感覚運動情報と注目点情報の相互想起モデルに基づくオンライン動作 模倣システム」と題した講演があった。 日常生活空間で人間と共同作業するロボットの開発には、ロボットに社会的 知能を発達させなくてはならない。そのためのアプローチとして、講演者はオン ライン動作模倣を考えている。模倣機能は「型模倣」、「動作模倣」「目的/意図 レベル模倣(心理学分野で「真の模倣」と呼ばれる)」という段階を経て発達する と考えられる。
これに倣い、初歩的な模倣から始めて次第に真の模倣へ近づく ようロボットにインタラクティヴに模倣学習をさせることを考える。モーション キャプチャから得られた様々な動き(関節角の時系列)を隠れマルコフモデルを 用いて抽象化し、基本動作を原始シンボル空間という位相構造に表現させる。
そうすると、個々の行動の関係性は原始シンボル空間内の距離関係として表現 でき、空間中の点の運動として観察相手の行動を理解し模倣することができる ようになるだろう。この空間は抽象的なものなので、さまざまなセンサからの 情報も取り込むことができ、感覚と行動が集約されたマルチモーダル情報として ロボットに認識させることも可能である。現時点ではまだタスクの目的を達成 させるという概念の習得は困難であるから、まずは人間の大まかな動作をあら かじめロボットに教えておき、その動作に「着目」させることで行動の目的を 想起させるという試みが検討された。
この講演に対して反論も含め活発な議論が起きた。議論点は、すべてをロボ ットに教えることなくいかにロボットに真の模倣をさせるかという課題に対し、 実際は開発者がプログラムモジュールを作っているのではないか、ということである。ある環境である動作をしようと思った時、そのような動きになって “しまう”のだということがアフォーダンス的に重要な点であろう。
だとすると、 ロボットの身体的・プログラム的特性を鑑みた上で、どこをつくり込み、どこを 学習させるかの見極めが研究として肝要なのではないか。講演者はこれらの 議論を踏まえ、日常生活を支援するヒューマノイドロボットを目指すために、 未知の環境に柔軟に対応する能力、ユーザの嗜好に適応する能力、曖昧性・ 誤解を解消する質問・提案・確認能力、経験を蓄積し活用する能力の実現が 重要であることを示した。人間とロボットのコミュニケーションの難しさと、 今後の研究の方向性が実感できた発表であった。
報告者:瀬名 秀明(作家・東北大学機械系特任教授)
橋本 敬(北陸先端科学技術大学院大学助教授)
3.第219回オムロンけいはんな文化フォーラムご案内
| 「万葉集は言葉の文化財!」 |
講 師:上野 誠 氏 〔万葉学者 奈良大学教授〕
日 時:平成18年7月22日(土) 午後2:00~3:30
場 所:けいはんなプラザ交流棟3F 大会議室 「ナイル」
参加費:無料
詳細はこちら
4.おしらせ
| 平素は「Sundaial Report」をご愛読いただきありがとうございます。 1993年8月より、株式会社けいはんな 及び けいはんなプラザに関します 研究交流情報誌として本誌を発行してまいりましたが、本109号をもちまして 最終号とさせていただきます。 長らくのご愛読に厚く御礼申し上げます。 なお、これまで掲載してきました情報につきましては、下記の各ホームページ にてお知らせいたしておりますのでご利用くださいますようお願いいたします。 |
株式会社 けいはんな http://www.keihanna-plaza.co.jp/
けいはんな新産業創出・交流センター http://keihanna.biz/
関西文化学術研究都市知的クラスター推進本部 http://i-cluster.keihanna-plaza.co.jp/
京都府地域結集型研究事業推進室 http://kfpt.keihanna-plaza.co.jp/

